46 窓の魚

窓の魚

窓の魚

「こんな小説を書いていたら、身体がもたないのではないだろうか」
 そう作者の心配をしてしまうくらい、震えるほどの衝撃を受けた。こんなに物語に圧倒されたのは久し振りだった。その一文一文から丁寧な想いが伝わって、物凄いエネルギーを感じた。正直、自分はもう小説を書くのをやめようか、とさえ思った。命を削って物語を紡ぐとは、こういうことなのだ。そう思えた小説だった。
 内湯に泳ぐ魚の宿は、以前テレビで見たことがある。それを作者がヒントにしたのかはわからないが、少なくともわたしには夢心地なリアリティを齎してくれた。四人の視点から成る物語の本質は、最後まで読んでも見えてこない。なので、読み方によっては少しも面白く感じない人もいると思う。何か本当かわからない、ぞくっとする話だった。人間の真理、その怪しさを問いているようにも思えた。
 けれど特筆すべきはその内容より、地の文の描写だ。ナツの章のそれが、本当にとてつもなかった。単純な感情表現しか出来ず本当に申し訳ないが、凄すぎて泣きそうだった。次から次へと襲いかかってくる描写に、一気に惹き込まれる。文字の連続の向こう側にハッと気付くことがあり、何度も夢から覚めるかのようだった。これだけでも読む価値がある、と思った。のちに直木賞受賞作家となるのも、頷ける。
 魂込めて文章を紡ぐ。その作者の想いが真っ直ぐに伝わってきて、同じく小説を書く者の端くれとして、とても刺激的な一冊だった。少し諦めかけていた想いが、奮い立たされた。
 まだ、終わりにはしたくない。そう強く思う、決意の一冊となった。今年出逢った本では、間違いなくナンバーワン。しかし、作者の小説の中では変わり種らしいので、次は西加奈子らしいと言われる小説を読んでみたい。