39 しをんのしおり

しをんのしおり (新潮文庫)

しをんのしおり (新潮文庫)

 三浦しをんのエッセイ本。著者の小説は読んだことがあり好きだったのと、エッセイが無性に読みたくなったので、購入した。しかし、三浦しをん自身についての予備知識ゼロで挑んだので、最初は面を喰らった。
 本書は著者の妄想爆発の日常系エッセイだ。冷静に淡々と妄想を語るしをん氏の文章は最初は少し抵抗があったが、慣れてくればくすりと笑え、もっともっとと病み付きになる。読み終えてしまうのが勿体無く感じ、しつこいくらいに重ねられたあとがきで何故かほっとし、ようやく徐々に終わりを受け入れることが出来た。
 主に腐女子と呼ばれる類の妄想が多いしをん氏。本人も自他共に認める同人好きだとか。イベントとかにもよく行かれるらしい。本書の内容の8割(というのは言い過ぎか?)がそういった内容だったのには驚いた。いつでもどこでも妄想力逞しいしをん氏には脱帽である。わたしもそれなりに妄想力はあるほうだと思っていたが、いやはやここまでくると少しついていけないかもしれないと不安になる。ただ、読んで傍観している分には実に楽しい。人の妄想を聞くのは基本的に好きなのだ。そうじゃなければ、小説など好んで読んでいられない。
 エッセイには友人や家族も数多く登場する。その誰もが親しみやすく身近に感じられた。それはしをん氏と友人らの普段の距離感がそのままエッセイに表れているからではないだろうか。他者との距離感を書くのはなかなか難しい。それをさらりとやってのけるしをん氏はさすがと言わざるをえない。
 そして、ここまで書いて気付いたのだが、本書の中で著者も触れていた、女性を下の名前+「公」のポジションをつけて呼ぶことが多いというのをわたしもそのまま実行してしまっていた。でも、三浦氏よりもしをん氏のほうがしっくりくる。それはわたしの中で、しをん氏がとても身近に感じられる存在になってしまったからだろう。このエッセイを読んでからわたしの中では、手の届かない素敵な小説を書く三浦しをんではなく、妄想爆発ガール三浦しをんとして、インプットされてしまった。それが故、三浦氏ではなく、しをん氏と呼びたくなってしまったのだ。
 小説とエッセイは別物だと思うが、この妄想力があの素晴らしい小説を生み出す糧になっているのかと思うと、なんだか感慨深い。わたしもしをん氏に倣って、妄想力を鍛えていきたいと思う。