03 少女ノイズ

少女ノイズ (光文社文庫)

少女ノイズ (光文社文庫)

 「ヘッドフォン萌え」なるものをご存知だろうか。
 その名の通り、ヘッドフォンをしている人に身悶えるほどの好意を抱いてしまう症状である。
 わたしの場合、その対象は女の子に限定される。野郎がヘッドフォンをしていてもなんとも思わない。電車内などで華奢な女の子がゴツめのヘッドフォンをしている姿を見かける度にどきっとしてしまう。わたしがそんな嗜好に陥ったのはすべてこの「少女ノイズ」のヒロインである瞑のせいである。彼女のトレードマークでもある大きなヘッドフォンはとても印象的で、もうそれを見ただけで瞑の影を何処かに見たような気がしてしまう。
 瞑は大抵屋上でぼんやりと倒れている。その頭には大きなヘッドフォンが装着され、そしてそのコードの先は何処にも繋がれていない。そんな状態で瞑は一体何を聞いていたのだろうか。何を聞こうとしていたのだろうか。次々と起こる事件などそっちのけでわたしは瞑の心ばかり探ろうとしていた。
 瞑を見守る(見守られている?)スカだってきっとそうに違いない。瞑自身が魅力的なのは勿論だが、瞑とスカ、二人の絶妙な関係もまた見所のひとつである。
 これはミステリ小説ではなく、恋愛小説であると断言してもいい。ミステリはあくまでスパイスでしかなく、この物語を動かしているのは間違いなく恋心である。静かに進行する恋の行く先をそっと見守りながら読み進めて欲しい。