07 死神の精度

死神の精度 (文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)

 死神と共に淡々と物語を読み進めていく。死神目線なので大袈裟に感情移入する必要もない為、ストーリーを純粋に楽しむことが出来るのだろう。読み解くのに難しい部分はなく読者は冷静(というか無関心?)な死神と同じ視点まで簡単に降りていける。自然に受け入れられる物語展開や表現は実に読みやすい。
 六つの人生と死神の関わりに不自然な部分がないように思える。それも作者の力量によるもので、死神という存在が当たり前に思えてしまう。それ素敵な錯覚により物語は円滑に進んでいく。
 物語は一応時系列順になっているらしかった。最初と最後の物語を読んで、頭の中でその繋がりが見えた時、わたしの中に訪れたのは死神という不変な存在の孤独と優しさだった。一年のうちに起こったことのように思えていたのに、実は長い年月が経過していたという事実に、死神の途方もない切なさと人間の命の刹那さを思う。
 死神が出会う人間は、大抵死ぬこととなる。目の前から消え行く存在であることをはじめからわかっていながら、その人間と関わらなければいけない死神の役割は、残酷なようにも思える。出会いと別れ。延々とその繰り返し。ある程度無関心でいなければ、あるいは無関心を装わなければ、死神という仕事には耐えられないのだろう。そう思って死神を思い起こしてみると、やはり切なさでいっぱいになるのだった。本人がそのことに気付いていないことがまた、胸を締め付ける。
 人の死を決定する役割なのに、なんだか憎めない死神・千葉。死神という、普通の人間とはズレている彼の愛すべき所は、実はとても人間らしい部分なのかもしれない。