09 MADE IN HEAVEN Kazemichi

MADE IN HEAVEN―Kazemichi

MADE IN HEAVEN―Kazemichi

 濃厚で妖艶な描写に酔ってしまえば、簡単に桜井亜美ワールドへ沈み込むことが出来る。そこは不安定で掴みどころがなく、無重力空間に浮遊しているような感覚に陥る。昔大好きだったその感覚を今もきちんと覚えていて、懐かしさと共に身体中へと広がっていくのを感じる。「痛い」と評されてしまうことも時にはあるが、こうして世界に溺れてしまうことが出来るのが桜井亜美作品の良さだと思う。
 この物語は特に設定に優れている。恋愛云々を抜きにしたとしてもその完成度はかなり高いと思う。亜美作品の中で一番好きかもしれない物語だ。
 こういう風に愛されたい。カゼミチがジュリに惹かれ、求め、慈しんだように愛して貰えたらと思わずにはいられない。まさに、命がけの愛情である。人によっては「重い」と捉えるかもしれないが、それくらいの「重さ」がないとわたしは物足りなく感じてしまう。いつでも全身全霊をかけて、誰かに愛されたい、誰かを愛していたいのだ。
 残された時間を出来る限り穏やかに平和に過ごしたいというカゼミチの想い。しかしそう思いながらも嫉妬をあらわにしてしまう気持ちも痛いほどにわかる。好きだから、束縛してしまったり、つまらなくことが気になってしまったりする。それはとても人間らしい感情で、そんな風にジュリを愛するカゼミチは、心までサイボーグになってしまったわけではない。
 大切な人を大切に想い、それを貫く。当たり前のようでなかなか難しいことだけれども、カゼミチが命を懸けて示してくれた、その重要さを忘れないでいたい。