10 汚れつちまつた悲しみに……

汚れつちまつた悲しみに…… 中原中也詩集 (集英社文庫)

汚れつちまつた悲しみに…… 中原中也詩集 (集英社文庫)

 確立された自分の世界の中で、言葉を発し続けている人。そんな印象を作者に抱いた。
 作者はきっと理解など求めていないのだろう。この詩集に関しては「わかる」という言葉は使いたくない。事実「わからない」部分の方が多かった。難しい単語をそれほど多用しているわけではないのだが、作者独特の表現は伝わり難い気もした。それは意図して伝わらないようにしているように思える。きっと作者の言葉はわたしたちに向けられたものではないからなのだろう。作者は自分自身へと常に語りかけているのだ。
 結局わたしたちは「感じる」ことしか出来ない。言葉の組み合わせやそのリズムを感じて、その世界を漂うしかない。それだけでは物足りない気持ちになったりはせず、むしろそれ以上踏み込んではいけないと本能的に察知する。それは自然と備わっている危険回避能力が発動しているからだろう。
 深く読み込めば読み込むほど、もう元の自分には戻って来れない。そんな気がするのだ。
 だけど、もう少しだけ浸っていたい。この美しく懐かしい寂寞感に溺れていたい。そう思ってしまう自分は、もしかしたらもう戻れない所の淵までやって来てしまったのかもしれない。