12 はるがいったら

はるがいったら

はるがいったら

 優しい柔らかい気持ちになれる本を読もう。そう思って再読したのがこの本だった。今の時代、時期に何故この本を選んだのか自分でもわからなかったが、読み進めていくうちに答えが見つかりそうな気がした。
 わたしはただ温まりたかった。それだけだった。
 この本を読み終えて、心はとてもぽかぽかぬくぬくと温かくなった。自然と優しい表情も出来ている気がした。不器用な姉弟に気付かされた、わたし自身の不器用でけれども愛おしい部分が垣間見えた。老犬ハルが教えてくれる終焉も全部ひっくるめて、大切な宝箱に閉まっておきたい想いで溢れた。
 園と恭司の関係に胸を痛め、行となっちゃんの関係にこそばゆくなる。主に恋愛も絡んでいるこのふたつの関係性に着目していた。収まる所に収まった感じのエンディングは、実に清々しい気持ちになれた。その他の人間関係もしっかり描かれていて、出逢う人々それぞれがきちんと「生きて」いる。この描写力を最初から最後までキープし続けられる筆者には脱帽する。
 老犬の死をテーマにしているなら、泣けて当たり前だろう、という人もいるかもしれない。確かに、ハルの死には素直に泣ける。けれども、それはハルの死という単独の事象を元に起こったわけではない。ハルの死に至るまでの園や行の心の動き、心の揺れを強く感じるからこそ、最後に流せる涙は何より優しいものとなるのだ。わたしはこの作品を読んで自分が流した涙を忘れたくないと思った。もし忘れてしまった時、その時はもう一度この本を手に取る時なのだろう、とも思った。