14 裏庭

裏庭 (新潮文庫)

裏庭 (新潮文庫)

 まだ中学生だった頃のわたしはこの本と出逢って裏庭に惹かれ、自分も裏庭を持てるのではないかと試行錯誤を繰り返していた。大きな鏡の中に映る自分の像を眺めてみたり、テルミィの経験したような冒険物語を夢想してみたり。そんなこともこの本を読み返してみるまで、読み終わるまで忘れていた。子どもの頃、それはとても重大なことだったはずなのに。大人になるってそういうことなのだろうか。大人になった今、こうして思い出せたことが奇跡のように感じる。
 この物語は子どもが焦がれるだけのただのファンタジー小説ではない。その奥には現代の子どもの、もしくはそのまた親の代から引き継がれている、深い闇が見え隠れしている。わたしも照美と、さっちゃんと同じように、母親からの愛情を受けて育たなかったと記憶している。今考えればそんなことはないのだけれども、思春期の頃にはそう思い込んでいた。だからきっと余計に裏庭に惹かれたのだろう。そこを逃げ場所にしてしまいたかったのだ。わたしは裏庭には行けなかったけれども、代わりに沢山の物語を紡ぐことが出来た。そのことがわたしの唯一の救済だったように思う。そういったわたしの心の小さな闇の部分をくすぐって刺激するような小説であることに間違いない。
 謎が残らずに、問いかけに静かな解が与えられるエンディングは実に爽快だった。大人になってしまえば笑い話にしてしまうようなことも、子どもはいつだって真剣に考えている。そのことを教えられたような気がして、はっとした。わたしはいつから、こんな大人の皮をかぶって生活していたのだろうか、と。最後、レイチェルと丈治がおばあちゃんとおじいちゃんから、ただの少女と少年に戻ったように、この本を読み終えたとき、あなたの心は昔の面影を取り戻しにいこうとするに違いない。それは簡単なことではないかもしれないけれども、幼少の記憶の曖昧さに助けられながら、あんなこともあったなあなんてじっくりと思い出してみるというのも、この本を読み終わった後の楽しみ方なのかもしれない。