15 さよならピアノソナタ

さよならピアノソナタ (電撃文庫)

さよならピアノソナタ (電撃文庫)

 良い意味でも悪い意味でもライトな小説だった。昨今の若者はこういった種類の小説を好んで読むのか、と少々批評めいた読み方をしてしまう場面もあったが、始終通して一貫した世界観が守られていて好感が持てた。
 伏線も実にさりげなく用意されていてそれがきちんと収拾されていて物語が成り立っている。音楽を文章で表現するのは難しいと思うが、そこに主人公の主観や感覚を交えることでそれを成功させているようにみえる。それに作者の音楽に関する知識がとても深く、物語の裏付けとして納得させるだけの力を持っているのには感心した。特にヒロインである真冬と対決する際の曲を神楽坂先輩が選んだ理由というのは、思わず頷いてしまうものばかりだった。お見事である。
 キャラクター小説とも呼ばれるライトノベルだけに、登場人物たちの多種多様さはさすがである程度の型にハマりつつも個性を発揮出来ていたように思う。個人的には神楽坂先輩のようなタイプのキャラクターが出てくるとわくわくと胸踊り物語に対する期待が膨らむ。何か起こるのではないかと思わせる、その思わせぶり加減が大好きだ。そこを受け止められるかどうかが、ライトノベルを読めるかどうかの重要な鍵のひとつなのではないだろうか。
 純粋無垢で何処までも爽やかな物語は、読者に等身大の想いを運んでくれる。特に若い読者は共感する部分も多いだろう。読後感は悪くないし、読んでいて一定のリズムのようなものがありそれが快感でもあった。底抜けに明るいだけのライトノベルよりこうした若干重みの感じられる物語の方がわたしの好みであることは間違いない。どっちつかずの物足りなさも若干感じつつ、それはそれでライトノベルの醍醐味なのだと納得する。
 ゴミ投棄場の真ん中で、真冬の弾く澄んだピアノの音色が聴こえてくるような気がした。主人公がその音色の最中で見つけたのは、捨てたベースだけではなく、言葉にしてしまうのは勿体無いくらい大切な想いだったに違いない。きっと黒い鳥の声のように、自らが想えば、そこに存在するものなのだろう。