16 ヴィヨンの妻

ヴィヨンの妻 (新潮文庫)

ヴィヨンの妻 (新潮文庫)

 太宰作品に漂う死の予感は、何も暗い思考回路だけから成り立っているわけではない。家族の為に一生懸命頑張ろうとしているが、でもどうしようも出来ない現実と戦っている主人公たちは、時にユーモラスな一面を覗かせてくれる。しかし、それがわざと無理して描かれているようにも感じられる。本当のところはわからないが、ユーモラスな描写は太宰が生きようとしている証なのではないだろうか、と思った。
 わたしはこの一冊の中に散りばめられた物語を読んで、それほど逼迫した死の気配を感じられなかった。むしろ生きていく為に頑張ろうともがいて足掻いている、そのどうにもならなさが読んで取れた。身体が傾いて生きているような感覚。まともじゃない、平常ではない、ということだけれども、そんな感覚に陥った。
 駄目亭主にさんざん振り回されながらも、それでも文句も言わず家庭を守ることに全てを尽くす。そんな女性を太宰は求めていたのだろうか。わたしもそんな人が連れ合いなら良いな、と思ってみたが、そんなんじゃ好き勝手にしてばかりで堕落していく一方だな、と思い直し、やはり自分できちんと立っていられることが重要なのだろう、と再確認して明日へと向かう。