17 とらドラ!

とらドラ!1 (電撃文庫)

とらドラ!1 (電撃文庫)

 ライトノベルを侮るなかれ。と文学界の異端児的存在のライトノベル肯定派へ転身してしまったきっかけとなった作品のひとつに、この本を挙げたい。所謂ラブコメに分類される種類の本だが、その内容は真剣勝負の恋愛小説である。
 文体こそライトノベルらしい感じはするが、それが描く恋愛模様は一筋縄ではいかない。目付きが悪いだけで勘違いされているが本当は心根優しい主人公と、その主人公が想いを寄せている女の子の親友である逢坂大河。これは、主に二人が互いの恋愛成就の為に奮闘する物語である。しかし協力していくうちにいがみ合い喧嘩ばかりだった二人の間に、不思議な感情が生じる。それは本当の自分を知ってくれてなおかつそれでも否定せず傍に居続けてくれる相手への感謝と敬愛だと、わたしは感じた。それが所謂恋というものなのか、愛というものなのか。それはまだ、今の段階ではわからないだろう。それで良いのだ。思春期の恋愛時にすでにそれを恋と呼ぶべきか愛と呼べるのか知っている者は少ない。そういうものは後になって、もう少し二人が成長してからわかるものなのだ。
 この巻の最後、逢坂大河が想い人に告白して終わるのだが、その告白の最中も思わず「しょうがないなあ」とか言いながら微笑んでしまいたくなるような言動には愛しさがこみ上げてくる。
 ただの恋愛物語だけに留まらず、本当の自分と周囲の思っている自分との温度差に対する葛藤も描かれており、思春期を通ってきた人間なら一度は考えたことがある抱えたことがある想いが綴られている点は共感も得やすいだろう。
 青春時代、恋に悩んだことのある人には自信を持ってオススメしたい。あの頃を思い出して、少しの間主人公や逢坂大河の恋愛に想いを重ねてみてはいかがだろうか。