18 向日葵の咲かない夏

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

 衝撃的な結末に思わず息を呑んだ。息をするのを、忘れた。
 ただのサスペンスや推理モノではない。この作品は現代の社会的な問題点を浮かび上がらせる、透かし絵のようなものだ。作者は小説という媒体を使い、訴えたいことを伝えたいことをわたしたちに感じさせることに成功している。少なくともわたし相手には成功した。もっとも作者が本当にそれを伝えたかったのかどうかは直接聞いたわけでもないのでわからないが、わたしの推測からすると作者は現代社会の抱える弱い側面を訴えたかったのではないだろうか。
 主人公の少し不思議な世界に、最後はみんな、引き摺り込まれてしまう。読後、わたしは自分が自分として此処に立っているのがやっとだった。どうしても腑に落ちない、理解したくない部分もあった。しかし、やがてゆっくりと気付く。それが、自分の深い心の闇の部分から逃げているだけだということに。主人公に同調することをこんなにも恐れる小説が今まであっただろうか。わたしが今まで読んだ小説の中で、一番怖いと思った小説だった。そして、哀しいと思った小説だった。
 物語は何故か優しい哀しさの中、終わりを迎える。そう、優しい哀しさという表現がしっくりくる。
 読み進めていくとだんだん、何が正解だかわからなくなってくる。特に最後の数十ページは。どうやら、真実を追求することだけが物語を解決に結び付けるわけではないらしい。この際真実なんてどうでもよくなって、やがてわたしは主人公の心の闇と向かい合う。闇、と呼んで差し支えないものなのか、少々迷う。だってそれは主人公にとっては日常で、愛しささえ覚えているものかもしれないのだから。でも、それは闇だ、とわたしは確信した。
 だから、あなたにも確かめて欲しい。主人公の心は闇の中にあるのかどうか。この本を読み終わって、主人公の心が何処へ向かうのか、一緒に考えて、優しい哀しさと戦って欲しい。そう出来れば、わたしと一緒に戦って欲しい。どうにもひとりきりでは、負けてしまいそうだから。哀しい予感に満ちた胸は、早鐘のように危険を教えてくれるけれども、わたしはもう、ここから動くことが出来そうにないから。あなたの方から、近付いて。そうして、わたしを解き放って欲しい。