20 猫鳴り

猫鳴り (双葉文庫)

猫鳴り (双葉文庫)

 仔猫を拾ってから成長し死ぬまでの物語だと聞かされた時、殆どの読者が泣ける感動大作を想像するだろう。確かに本書が大作、傑作であるのは間違いない。けれど筆者は、そんな当初の読者の期待を裏切るような形で物語の冒頭を進めていく。猫が好きでタイトルの猫につられて読み始めたような人は、もしかしたら第一部の途中で本を閉じたくなってしまうかもしれない。それくらいに第一部は予想に反する形で進む。途中、何度も投げ出したくなるような苦しい場面に直面する。けれども最後は読んでいて良かったと思わずにはいられない。まさに筆者の思惑通りといったところだろうか。素直に感服せざるを得ない。
 モンと名付けられた猫が拾われてから老衰で死んでしまうまでのモンにまつわる人間の物語に、わたしは気付けば虜になっていた。第二部ではモンはそれほど多く登場しないにも関わらず、その存在感だけははっきりと主張していた。第三部では、モンの闘病生活をそのまま自分の死の予感と重ねている藤治の姿を更に自分のこれからに重ねている自分がいた。
 死に関する物語では思わず泣いてしまうことが多いわたしだったが、この物語は涙ひとつ流すことなく読むことが出来た。解説で豊崎由美さんが述べているように、最後の瞬間まで「生きる」モンに敬意を表すべきだと思ったからだ。
 最後まで恐れることなくただ死を受容していたモン。わたしもそんな風に終わりを迎えたい。わたしがその生涯を終えたあと、周囲の人達にそっとわたしの余韻を抱き締めて貰えるような、そんな死に方が出来ればいいなと思う。