22 肝心の子供/眼と太陽

肝心の子供/眼と太陽 (河出文庫)

肝心の子供/眼と太陽 (河出文庫)

 「肝心の子供」をなんの予備知識もなく読み始めたのだが、最初、わたしは小説ではないものを読んでいるのかもしれないと思った。ブッダの生い立ちやその跡継ぎの話だったので、史実を、ノンフィクションを読んでいると思っていた。しかしあとがきの対談でもわかることだが、これは史実になるべく忠実になるようにしながら書かれた立派な小説であった。
 実在した人物のことを小説にしてしまうとは、なかなか難しいことだと思う。資料集めも膨大な量になるだろうし、なるべく史実に近付けながら想像部分を付け足すのは至難の業だろう。そのバランスがこの作品では上手くとれていたように思う。読み終えた後、実在した人物に対するイメージがより鮮明に描けるようになっていたのが何よりの証拠だ。史実を壊すことなく、物語がきちんと成り立っていたのには感服した。
 「眼と太陽」は淡々と時間が過ぎていく感じがした。読後、主人公がアメリカで過ごした七年間を共に過ごし終えたような気になってしまった。細かい描写まで丁寧に神経が行き渡っていて、どんな場面にも確かに血が通っていた。特に風景描写は真っ直ぐに心へすとんと降りてくる。雪の白さを強調している文章が印象的だった。同じような文章を繰り返すことはタブー視されることが多いが、その場面ではとても効果的に雪の白さを表現出来ていたように思う。
 このふたつの作品からは、どちらも静かに過ぎていく時間を感じたので、作者の他の作品も是非読んでみたいと思った。同じように統一して、このような時間の経過を描く人なのか、それとも今回だけなのか、とても気になった。