23 神田川デイズ

神田川デイズ (角川文庫)

神田川デイズ (角川文庫)

 人生の吹き溜まりに居ても、輝くことが出来そうになくても、諦めてしまおうとしていても、希望はきっとそっと寄り添ってくれるものだ。
 わたしは大学生にはなれなかったので、輝かしい大学生活とは程遠いと思われるこの物語でさえ、憧れの眼差しでみてしまう部分があった。どうしようもない冴えない大学生活ですら経験出来なかったわたしにとっては、大学生というそれだけで意味や価値が生じる。そしてそこには同時に自責の念とたくさんの後悔が含まれる。そんな情けない自分が想起されるような物語だった。けれど、そんな自分をも優しく包み込んでくれるような最後にほっとした。
 大学生活を通して伝わってくる想いは、社会人になった今のわたしたちでも共通のものを感じることが出来る。普遍的な悩みや迷いは立場や肩書きなど関係なく誰にでも降り注ぐものなのかもしれない。
 何者にもなれない自分という存在を容認するのは難しい。誰しもが選ばれたい、自分は特別である、と信じたい想いを抱えているのだろう。でもそこで、現実は容赦無く突きつけられる。そこで挫折するも、開き直るも自由だけれども。
 何者にもなれないなら、わたしはわたしでいるしかない。それを受け入れて生きていくしかない。
 そんな自分の涙目の決死の想いにそっと背中を押してくれるような。そんな優しさを孕んでいる物語だった。