24 彼女のこんだて帖

彼女のこんだて帖 (講談社文庫)

彼女のこんだて帖 (講談社文庫)

 はっきり言って、わたしは家事が苦手だ。特に料理は大がつくほど苦手だ。結婚して主婦になったことを後悔すらしていた。そう、この本を読むまでは。
 いくら旦那様が優しく何でも許してくれる人だからといって、何もしないわけにはいかない。家事はサボればサボっただけ毎日積もりに積もっていく。洗濯、掃除、食器洗い、料理……わたしは家政婦になるために結婚したわけじゃない。なんて、よく聞く台詞だが本当に本気でわたしもそう思っていた。
 こんなはずじゃなかった。この本の主人公の何人かもそう呟いていた。それと同時に「大丈夫、その想いを抱くことは間違ってなんかいない。そこからどう気持ちを持っていくかが重要なのだ。」そう、筆者の優しい導きの声が聞こえた気がした。
 料理がこんなにも人の心を穏やかで優しい気持ちにするものだと知らなかった。たくさんのエピソードとあたたかな料理。それだけで、涙が出そうになるくらいに幸せな気持ちになれた。
 料理を作ることで、一緒に食事をすることで、絆が生まれる。それは家族として、恋人として、仲間として、欠かせない絆だ。
 わたしの母はわたしと同様に料理が苦手だが、それでも毎日仕事が終わってから一生懸命、時には手を抜きながらも夕飯を作ってくれていた。そのことが本当に凄いことだと、感謝すべきことだと、今ようやくわかった。それがわかっただけでも、結婚して良かった、と思える。そして、わたしも誰かのそういう記憶に残る料理を作ることが出来たら、それは本当に幸せなことだな、と思う。この本を読んで、色々な料理と人々の想いに触れて、ああ、わたしは主婦になれて本当に良かった、と心から思えた。
 今夜からはきっと、素敵な想いと共に料理を楽しめるだろう。時にはその喜びを忘れて、なんでわたしばっかり、と思うこともあるかもしれない。そういう時にはまたこの本を読んで、あたたかい気持ちを取り戻そうと思う。こんなに素敵な料理との出会いをくれた角田さん、本当にありがとうございます。