27 メルカトル

メルカトル

メルカトル

 亡くなった祖父の書斎から埃にまみれた古ぼけた本を見つけた時の懐かしさと好奇心のようなものを感じた一冊だった。
 三人称で淡々と語られる中でも、描写が丁寧で美しく、まるで繊細なガラス細工を眺めているような気分になった。特に街の描写が印象的で、何処か海外のレンガ街を彷彿とさせる。
 物語の結末としては綺麗にまとまり過ぎていて多少物足りないと感じる部分もあったが、よく出来ていて読後感も悪くない。読んでいる間中、これからどうなるのだろうというわくわく感と、少しずつ答えが見えてくる期待感が交錯していた。不思議に満ちた物語展開に、次のページへ早く、と急かす自分がいた。
 登場人物の名前も特徴的で、意味深なものとなっている。最初は多少とっつきにくかったが慣れれば愛着も湧いてとてもお気に入りの名前たちになった。名前を愛されるということは、その人物が愛されることと同じ。憎めないキャラクターたちをわたしはいつしか好きになっていたようだ。
 感情の起伏のあまりない主人公なので、淡々と物語自体を楽しめることが出来た。次々と舞い降りてくる少し変わった目の前にある事象を素直に受け止めることが出来たのも、主人公の性格のおかげだろう。違和感を持つことなく、最後まで読めた。逆に起伏がそれほどないため、一気に惹き込むタイプではなく、じわじわと面白さが広がっていく物語と言えるかもしれない。
 とにかく、わたしは充分に楽しい時間を過ごすことが出来た。物語を読むことが素直に面白い、楽しいと感じられたので良かった。長野まゆみの他の著書も読んでみたい。