29 少女不十分

少女不十分 (講談社ノベルス)

少女不十分 (講談社ノベルス)

 フィクションとノンフィクションの狭間で書き続けることが出来る人が小説家なのだろう。
 西尾維新の作品を読むのははじめてだった。読みにくい(というか好き嫌いが別れる)と一部で言われているが、わたしは割とすらすらと読み終えることが出来た。次が気になる文体や展開はさすがで、淡々とした独白調の文体ならではの書き方もあったりと色々参考になる部分が多かった。
 小説家を主人公にしているので、思わずこれは西尾維新の身に本当に起こったことなのだろうか、と思うこともあった。というか、ほぼ最後の方までは西尾維新自身のノンフィクション小説であると感じていた。しかし、エンディングでそれらを見事なフィクション、創作小説に仕上げている。そこの線引きがとても上手いと思った。
 内容としては、現実に起こりうる出来事で、有り得ないだろうと思いつつ、でももしかしたらあるのかも、と思わせる。そんな小説だった。
 少女Uと主人公の関係がとてもリアルで、また少女Uの存在自体も「居たらびっくりするけれども本当に居そう」な少女像となっていた。
 何故大学生である主人公が小学生の少女Uに言われるがままになっているのか。それを受け入れられない人は多分読み終えることが出来ないだろう。理不尽なやりとりの中に嫌悪感や疑問を抱く人もいるかもしれない。これは、少女Uという存在をまるきり認められることが出来るかどうかにかかっている物語と言えるだろう。だから、無理だと思ったら諦めるしかない。事実、主人公も何度かそのようなことをほのめかしている。わたしは少女Uのような少女が好みなので、興味を持って読み進めることが出来た。
 少女Uが幸せであるように、そう願わずにはいられない。静かな小説の中、その想いだけが強く、どこまでも強く残った。