31 人魚姫のくつ

人魚姫のくつ (新潮文庫)

人魚姫のくつ (新潮文庫)

 恋をし続ける元サーカスの玉回しをしていた主人公。その美しい足には誰もが感嘆の溜息を漏らしたものだった。三人の男性と同時に付き合い、やがて妊娠し、その中の一人を選んで結婚する時も、彼女は自分なりの基準で男たちを選別していた。恋をし続けたいと願う彼女は根っからの恋愛体質なのかもしれない。しかしその恋の仕方は、どうにも恋に恋するといった感じで、自分の満足のためでしかない気がした。
 そこまで自由にしていて許される主人公を怖いと思う人もいるだろう。わからないという人もいるだろう。けれども、わたしはなんだか自分のことのように思えてしまって、親近感が湧いた。
 わたしも子供が出来たって、常に恋はしていたい。それが例え恋じゃなかったとしても。何かに夢中になることをやめるなんで出来ない。それは自分本位な考え方かもしれない。けど、後悔なんてしたくないから、いつだって自分に正直に思うままに生きるだけなのだ。そしてそれは幸せでありながらも、何処か虚空を孕んでいるものなのかもしれない。
 文章としては、流れるような場面転換が見事だった。また、夢見心地な文体と、上品な言葉遊びが印象的だった。タイトルも上手い、と思わず唸ってしまった。色々見習いたい部分の多い小説だった。