32 眼球譚

眼球譚(初稿) (河出文庫)

眼球譚(初稿) (河出文庫)

 2月の対談相手である胡子さんベスト本の中の一冊。少女は素直でなくてはならない、という胡子さんに頂いた一文と共に読み進めていった。
 シモーヌはまさに天使だと思う。これほどまでに素直で本能に従順な少女をわたしは知らない。一見突飛な言動の数々で、卑猥とも呼べる表現が最後まで続くが、全てはシモーヌの求めているところである。シモーヌは恥じらいを拭い去り、他人の目を完全に無視したところに存在している。まさに自分主義だ。これほどまでに素直だと、多少面は食らうが、なんでも言うことを聞いてあげたくなってしまう気もする。わたしはこうしたい、と思うと同時に行動しているような隠せない素直さは純粋過ぎて、逆に敬遠されてしまうかもしれない。確かに本書を読みながら、複雑な気持ちだった。シモーヌの言動を全て認めて黙って読み進めたい想いと、今すぐに本を閉じて捨ててしまいたい想いとが交錯していた。
 最後まで読み通したことで、わたしは少しシモーヌに近づけたのだろうか、と思う。素直な少女は見ていて気持ちが良い。願わくば、シモーヌの恍惚に満ちた笑顔がありますように。