34 作家の手紙

作家の手紙 (角川文庫)

作家の手紙 (角川文庫)

 代官山蔦屋書店にて平積みされていたのでなんとなく購入した一冊。短くてさらっと読める手紙作品集だ。
 手紙というと、個人的な内容になることが殆どだと思う。特定の誰かへ宛てた手紙には、たっぷりと相手への精一杯の想いが込められている。手紙には、ドラマがある。そこに着目して手紙風の創作作品や、実際に送った手紙、送りたい手紙を作品にしたものを集めていた。くすっと笑ってしまうものや、真剣に読みたいものまで、幅広く掲載されている。そこには小説とはまた少し違う方向から垣間見える物語があった。
 作家というと文章のプロだ。そんなプロの面々が綴った手紙はそれだけで芸術となる。手紙という固定された様式の中で、それぞれが工夫を凝らして手紙を読み物にしている。その技の数々は大したものである。
 明らかに創作だとわかるものもあれば、本当のことなんじゃないかと思ってしまう手紙もあった。そのどちらを取るのが正しいのかは、全て読者の判断に委ねられている。解説も何も存在しない本書は、作家から発信された渾身の、本当の意味での手紙、メッセージなのかもしれない。日頃言えないことも、作品という手紙にすることで、書きやすくなる。
 作家は、小説を書くことが仕事である。その仕事の延長線上にあるこの作品の僅かな部分に本音をしたためて、照れ隠しをしているんじゃないかとさえ思った。届けられない人へ、届いて欲しい。作家自身のそんな願いが込められている作品のように感じた。作家の等身大の声を作品を通して聞きたいのなら、オススメの一冊だ。