35 これはペンです

これはペンです

これはペンです

 「道化師の蝶」で芥川賞を受賞した円城塔の作品。読んでいる間中わくわくして、ライブ感のある読書を楽しむことが出来た。ストーリーというよりは、文章で人をこんなにも楽しませることが出来るのかと感銘を受けた作品。読書の面白さを追求した作品だと思った。読後感や内容というよりは、読んでいる間そのものが楽しいという、少し変化球的な小説だと思った。
 まず、書き出しからして秀逸だった。「叔父は文字である。」という文面から、あなたは何を想像するだろうか。この作品の言いたいことは、この一文に尽きるのではないかと思う。この物語では一貫して、主人公のわたしの叔父という人物がどんな人物なのか、とても気になる謎めいた書き方が施されている。そもそも人なのかどうかすら怪しい。でも、思わずそんな叔父に夢中なり、叔父の手紙を心待ちにしてしまう、そんな魅力が存在していた。
 文章はさほど堅苦しくはなく、割とすらすらと読み進めることが出来た。ただ、頭の良い、頭の回転の早い人の文章だろうな、とは思った。読んでいてとても心地良いのだ。一定のリズムで奏でられる物語は、頭にも心にもすうっと自然に沁み込んでいく。読者のことを良く考えている小説だと思った。置いてけぼりにされている感もあることにはあるが、それはイコール見捨てられた感ではないのだ。
 円城塔作品は難しいと耳にすることがあるが、わたしはそうでもないと思う。確かに、感想を述べたり、内容を説明したりするのは難しいかもしれない。しかし、読書という観点で考えれば、さほど難しいことはなく、むしろとても楽しいものだといえる。難しく考えてしまうのはこちらのほうで、物語はもっと自然にそこに寄り添い横たわっているのだ。もっと素直に読書の瞬間を楽しめれば、円城塔作品をもっともっと面白く感じられると思う。まだ手に取っていない方には、是非読んで頂きたい作家の一人だ。