37 夜のかくれんぼ

夜のかくれんぼ (新潮文庫)

夜のかくれんぼ (新潮文庫)

 ショートショートはその短さの中に小説が余すことなく凝縮されていて面白いジャンルだ。ただ短い文章というだけでは、小説としては成り立たない。物語が成立し、何かを示している。その状態にあの短さで持っていくのは至難の業だと思う。でも、星新一はそれをやってのける。海辺を散歩している時の波のように次から次へとわたしを攫っていく物語たち。その畳み掛けるような短い物語の連続に、次第に酔いしれるようになる。
 星新一ショートショート界では神様のような存在として知られているが、実際に読んでみるとそれも頷ける。ひとつひとつの物語が納得出来るもので、当たり前だがどれも手抜きのものがない。それがあれだけ膨大な量あるのだ。
 やはりショートショートは短いので、その数は重要になってくると思う。質の高い物語を集めることで、更に上を目指していける。あれだけの数を書けるということは、かなり高評価をもらっていい才能だと思う。千以上の内容のある物語を紡いで、それでようやく星新一というジャンルが確立出来るのだ。
 そして、ショートショートというとSFやオチのある話というイメージが強いかもしれないが、そんなことはないらしいというのが本書を読んでの一番の感想かもしれない。SF要素が強くなくてもぞっとするような話は書けるし、オチがはっきりしていなくても心に残る物語は紡げる。そんな風に感じることの出来たショートショートが何作かあった。その事実は自分の制作姿勢に対して、後押しして貰えているような気分になった。本書を読んでの一番の収穫だったかもしれない。
 個人的にはSF色の強い星新一作品が好きだった。タイムスリップとか、宇宙関係のモノとか、近未来的な匂いのするものは好ましい。というのも、わたしは渡辺浩弐の「1999年のゲーム・キッズ」シリーズを昔よく読んでいたからかもしれない。このゲームキッズシリーズもショートショートから成る小説で、星新一が好きな人はもしかしたら気に入ってもらえるかもしれない。星新一よりもだいぶブラックユーモアといった感じだが、こちらの作品もショートショートというジャンルでは忘れずに推しておきたい。
 ショートショートの作品は、小説の可能性を感じさせてくれる。わたしも可能性を広げるために、濃密な短い物語をたくさん紡いでいけたら、と思った。